「日本百名山全山踏破」の言葉を聞いて

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ここ1週間、ふと気がつくといつも山のことを思っていた。
先週の土曜日、初めて参加した山仲間の忘年会で、昨年、あの深田久弥の『日本百名山』を全山踏破を成し遂げたKさんを紹介され、忘年会後も友人のK(女性)さんと私の3人で喫茶店でこの百名山全山踏破につての話を聞かせてもらったのだった。

その時から心は“山”に飛び、かつての山登りをしきりに思い出していた。
夫はスキーは好きだが登山に興味のない人であったため、子供を連れての家族スキーやキャンプは毎年長野県まで行っていたが、登山からは全くかけ離れた生活をしてきた。
上高地には行くが、歩くだけで山には登らなかったし、八方尾根や西穂山荘までは行ったが、それ以上のところには行かなかった。
マッターホルンやアイガー北壁を眺めたと思い、ドイツに住む友人を訪ねての旅の途中や帰りに、スイスにも3回ほど立ち寄ったが、なにしろひとり旅。登れるところまで登山電車やロープウェイで登り、その後は自分であちこち寄り道しながらひとりで歩いて降り、それで満足していた。

そんな私にとって、Kさんの「百名山全山踏破」の話はとっても魅力的で、興味津々であり、
いつのまにか聞き入っていたのだった。
久しぶりにワクワクし、もう一度アルプスに登ってみたいなぁと思いながら聞いていた。
自分の知っているかつての大学のクラブの山仲間でも百名山を踏破した人は多分いない。
ある時同学年だったO君が言っていた。
「俺なぁ、最近は百名山をぼちぼち登ってるんや。あの頃はより高い山、難しい山、海外の山などに興味があり、
百名山を踏破しようなんて思いもしなかった。
ピークハンターやったし、興味の中心は冬山やスキーやったもんなぁ。
夏山は北アルプスや南アルプスが中心やった。
花の名前や木の名前なんて知ろうともしなかったし、全く興味がなかったもんなあ。
でも今、今日はこの山だけ登ろうと心に決め登り始めたら、そこに咲く花や木にも興味が湧いてきた。
結構おもしろく興味深いもんや」
しかしその彼からも百名山を踏破したとは未だに聞いていない。

「 I さん、これ。この前言ってた文集。読んでみて」
今年度最後の絵の教室で友人のKさんから手渡された。
彼女の2歳年上の大学の先輩の、日本百名山全山登頂を記念して出版した文集だった。
またしても百名山全山踏破の話だった。

読んでみると、Kさんの先輩は学生時代から山に嵌っていたわけではなく、夏山のアルバイト(松本-乗鞍岳を結ぶバスの車掌)で乗鞍岳から北アルプスを飽かずに眺めていた山好きの一人であったようだ。
1964年に発刊された深田久弥「日本百名山」に関心があり、文庫本になってから何度も読み返しては、次回登る山の計画を立てるのが楽しかったようだ。
1970〜80年代は高度成長期で仕事優先。なかなか山に登れなかったが、徐々に企業の連休制度が定着し始め、それを利用して大阪発夜行急行「ちくま」でよく北アルプスに向かったという。

この文集でも再びあの懐かしい『大阪駅発夜行急行「ちくま」』の文字を見、その言葉の響きにいっきに青春時代が蘇ったのだった。青春時代の思い出がすべてこの言葉夜行急行「ちくま」に詰まっている。

著者は定年を控えた時、先輩との話の中で「百名山をめざせ」と後押しされたという。
時が経ち、若かった頃と時代が変わり、今は各種山岳ツアーがあり、そのツアーに参加し目指す山を登れば案外登れるということも驚きだった。このことに関しては先日会ったKさんも同じようなことを言っていた。「歳をとってからの単独行はきついが、山岳ツアーを厳選して参加すれば登れる」と。
今はそんな時代なのかもしれないなぁとちょっと考えるところがあった。

「百名山全山踏破」、「深田久弥」の言葉を聞き、家に帰るとすぐに私の本棚に目がいったのはいうまでもないことだった。
「確か持っていたはず。この本だけは前の家から失わないように持ってきたはず」
そう思い、本棚の隅から隅までくまなく探してみたが、見つからず、その代わりにあったのが
写真の深田久弥「わが愛する山々」(新潮文庫 ¥130)だった。
当時の癖で裏表紙に大学名、購入時期、名前を書いていた。
大学2年になった春に買い、その後何度も読み返し、時には合宿や山登りにまで持ち歩いていた。
今は表紙も薄汚れ、ボロボロではあるが、いまだに手放せなく本棚の隅にいつも飾られている。
久しぶりに開いてみると、最初の山が「笠ヶ岳」であった。
突然双六小屋から笠ヶ岳までのあの長い登山道が目の前に浮かび、やっとの思いで辿り着いた山頂は石片で覆われていたことを昨日のことのように思い出したのだった。その後は新穂高温泉に降りた。

「こころの山」という章では今は亡き奥さんとの出会いから思い出の山行までを書いている。
彼の「こころの山」は、初めて登った北アルプスの山であり、若くして亡くなられた奥さんとの最後に登った山でもある穂高であると書かれていた。

穂高よさらば また来る日まで
奥穂に映ゆるあかね雲
返り見すれば 遠ざかる
まぶたに残る ジャンダルム

奥さんの死後、追悼登山をひとり単独行で行い、奥さんが好きだったモーツァルトの曲が流れる北穂小屋で一泊し、奥穂高岳から翌日上高地に降りたという。
どんな気持ちでこの歌を歌っていたのだろう。

この章を読み、さて私の「こころの山」は?
そう思った。
やはり、初めての本格的登山だった南アルプスの仙丈ヶ岳。
そして学生時代3回生の夏、女3人で縦走した南アルプス赤石岳から光岳までの山々。
その中でも特に忘れがたい赤石岳山頂からの360度の展望。快晴だった。
もうひとつ、高い山への登山ではないが、初めての冬の寒い合宿で、まだ暗いなかスキー板の裏にシールをつけ、
雪の降り積もった、動物の足跡だけしか目につかない深い森林の中を山頂まで登り、太陽が昇るのをみた時。
気温がマイナスから0度になった時、雪面に突き立てていたスキー板の先端から、それまで凍っていた雪が溶けて水滴になりポトンと落ちた。
気温0度がどれだけの暖かさか実感した瞬間だった。
これらが私のこころの山、こころの風景かもしれない。

この冊子の著者は、「まえがき」に次のようなことを書いている。
「………しかし、その厳しさ、苦しさを乗り越えてなお引きつけるものがある。日の出や夕日に見せる自然の織りなす美しさや可憐な高山植物に魅せられ、また他人と競争ではない、自分自身の挑戦で高みをめざすことが私の人生のよりどころとなった。万事スマホやテレビを見たり、インターネットを操作して分かったような気分になっていないだろうか。現場に行かなければ出会えない感動がある。………」

人それぞれ、山の登り方もそれぞれ、人生の送り方もそれぞれだと思う。
自分なりの山の登り方をすればよいし、生きかたをすればいい。
でも、この小冊子と先日出会ったKさんの話は、残すところあと半年となった60代最後の日々を過ごす私の心に
何かしらぽっと明るい火を灯してくれたように思った。
「70代になっても元気にやっていこう、今好きだと思い続けていることをこれから先も楽しみながら続けていこう、決っして競争ではなく、人と比べるのではなく」
そのように思える勇気を与えてくれたように感じたのだった。

いい本を貸してもらえてよかったなぁと思った日だった。


* 百名山の中で自分の登った山を数えてみたら、結構登っていたのにはびっくりした。






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Commented by pallet-sorairo at 2018-12-29 22:20
こんばんは。
すっかり山熱が再燃していますね(^^。
私も山好きな一人ですから、PochiPochiさんの気持の高ぶりよくわかります!
私は今まで特に山岳会にも属せずほとんどツアーにも乗らず
マイペースで山を楽しんできましたので
これからもそんなふうに山を楽しんで行こうと思っています。
何処かの山でPochiPochiさんとばったりできたら楽しいですね!
Commented by PochiPochi-2-s at 2018-12-30 07:41
☆ pallet-sorairoさん

ふふふ。
やっぱりハイテンションになりますねぇ。

私も一度だけ隣町にある勤労者山岳クラブに誘われたのですが、
少し躊躇し、結局は入るのをやめました。
自分なりに楽しみたかったのです。
pallet さんと同じです。

どうも今年の春ぐらいから“山への風”が吹きはじめたようです。
絵の教室で隣に座るたった一人の男性Hさんも南アルプスが好きで
よく登ったらしいです。

そのうちにばったり会えれば楽しいですね。
「あれっ、pallet さん?」って。
上高地、3月になるようです。弟の都合で。まだ現役のサラリーマンですので。
Commented by Deko at 2018-12-30 19:36 x
こんばんわ
昔取った杵柄できっとすぐに山へ馴染んで活動されるのでしょうね。百名山に結構登られていた由健脚ですね。前回登った低山で下るときに膝が痛いなあと感じて少し体力に自信がなくなりつつあり登るのも降りるのも自分自身ですね。寒波が押し寄せて寒い年末ですね。新年が健やかな佳い年でありますように。。。
Commented by PochiPochi-2-s at 2018-12-31 16:46
☆ Dekoさん

こんにちは。
今頃お正月の準備で忙しい頃だと思っています。

さあ、どうかな?
でも歩くのは好きですからなんとか歩けるかなぁと思っています。
山登りも下りが大変ですよね。
できるだけ膝に負担をかけないようにとは思うのですが。
Dekoさん、気をつけてくださいね。

夏前にこのメンバーで登った時、みんな一様にスキーのストックのような
ものを持ち歩いていましたが、あれはどうなんですか?
かえって危ないような気がしますが…。

天気予報では東京は3が日、かなり寒いようですね。
くれぐれも気をつけて。

この一年間たくさんコメントをいただきありがとうございました。
楽しかったです。
来年もよろしくお願いします。

最後になりましたが、
ご家族みなさんお揃いで佳いお正月をお迎えください。

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by PochiPochi-2-s | 2018-12-29 20:33 | 山歩 | Trackback | Comments(4)

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by PochiPochi-2-s