早朝から水遣りをしていた。
ふと裏山を見上げた。
視界の一角に濃いピンク色のサルスベリの花が見えた。
道路を隔てた正面のOさんの家のサルスベリの花だった。
門を入ってすぐの左側に植えられており、
私の家の玄関から裏山を背景にして咲くサルスベリの花がよく見える。
あれからもう3ヶ月。O さんはどうしてはるだろうか?
お元気だろうか?
主人(あるじ)はいなくても植物は正直なもの。時期が来れば健気に咲く。
Oさんは今年92歳。高齢の一人暮らし。週に2、3回近くに住む長男さんが訪ねてくる。
50代半ばに奥様を亡くし、2人の子どもの独立後からの一人暮らしの生活は長い。
私たちがここに引っ越してきた22年前にはもうすでに一人暮らしだった。
高齢ではあるが、とてもお元気に過ごされていた。
4月中頃1人で出かけ帰宅した時に、門の前にある階段でつまづき、股関節のあたりの骨を骨折したらしい。
高齢のため手術せずに骨がくっつくまで気長に待つという話だった。
長期入院になると聞いていたので、連休明けにお顔を見がてら話もしたかったのでお見舞いに行った。
動けないので退屈だと言ってられたが、お元気そうでほっとしたのだった。
その時からもう2ヶ月あまりがたつ。
今では車椅子に乗り、リハビリに励んでいるらしい。
家の様子を見に来られる長男さんに時々Oさんの様子を尋ねてはいるが、
さぞかし退屈してられることだろうと想像に難くない。
「近いうちにもう一度ぜひお顔を見にお見舞いに行こう」
今朝もサルスベリの花を見上げながら思っていた。
主人(あるじ)のいない家でも花は咲くが、なんとなく寂しさが漂っている。
家に生気が感じられない。
毎朝顔を合わせる度に、
ただひと言、「おはようございます。お元気そうですね」の言葉を微笑みながら交わすだけであった。
そのことがいかに大切なことだったのか、今になってよく分かる。
一日も早く全快し、もう一度彼の家に帰ってきてほしいと願っている。
高齢者の暮らしは、突然の出来事で、それまで想像もしなかった状態に陥ってしまい、
回復し元の状態になるまで、かなりの時間が必要となる。
いつも周りの人たちに迷惑がかからないようにと人一倍気を使う人であったが、
それでもやはり思ってもみなかった状態に陥ってしまった。
これから先私たちの世代がOさんと同じような状況に陥らないとも限らない。
気をつけて生活しなければとますます思ってしまった日だった。
* * *
大阪は今日で13日連続の猛暑日だと天気予報が報じていた。
今日も午後からはクーラーの中で過ごした。
異常な状態である。