今日も朝からうだるような暑さだった。
午前11時過ぎにはデッキの温度計はすでに37度を示していた。
*
一昨日のこと。
「あらっ、92歳のブロガーって? すごい人だ。
でもこの笑顔と雰囲気。すてきだなぁ」
あまりの暑さに我慢できず美容院へ行った時、待ち時間に雑誌(婦人画報・8月号)を手渡された。
パラパラとめくり、見るともなく見ていた時だった。
たった『一人の「革命」』というタイトルが目に入り、
興味津々でその特集記事を読み始め、そのまま記事に没頭してしまった。
彼のブログに出合った時の衝撃は忘れられません。
自分はいったい、世の中の何を見ていたのか……と。
「私の闇の奥」という時事ブログを、
12年にわたって書き続けている藤永茂さん。92歳。
日本とカナダの名門大学で教授を長年務めた
物理化学者であり、いくつかの小説や論評の
著作がある文筆家でもあります。
現在、故郷の福岡で妻の介護をしながら、
ブログでは、社会の急所を突き刺すような、鋭く、
オルタナティブな論考を発表する藤永さん。
それはまるで、この世界の片隅でひとり、
革命の歌を紡ぎ続けているかのようでもあります。
特集記事の見出しに書かれていた文章である。
92歳で、妻の介護をしながら、ブログで自分の考えを発信している。
いったいどのような人なのだろうか。
夢中になって読んだ。
長年連れ添った奥さんが、3年前腸閉塞を患い、手術には成功した。しかし、その後の病院の人手不足からくる
手荒い扱いにショックを受け、急に認知症が進行し、現在は要介護5の状態になってしまった。子供たちはカナダ
に住んでおり、バリアフリーでもない自宅での老老介護には限界があり、現在は住居型の老人ホームの一室で妻の介護をしながら夫婦で生活しているという。そしてその妻の介護の生活の中で、ブログ「私の闇の奥」を書き発信している。彼のブログは時事ブログという範疇に入り、決してアクセス数が多いブログではないが、「人間が人間をどう扱ってきたか」という問題を一貫して伝えているという。
しかし、ブログ内容はともかく、私は彼の妻に対する姿勢や考え方に共感したのだった。
「じゃなかしゃば」という短いエッセイの書き出しで藤永さんは次のように書いている。
私は今92歳、妻もほぼ同年齢ですが、私の方が元気です。妻は二人の子供を育て、自分の母も自宅で介護しました。私は、その間、物理学の教師、研究者として、自由な時間を持つことができました。子供の、そして母親のケアに妻が尽くした数知れぬ日々を思いながら、私は老老介護の昼夜を過ごしています。
子供の頃から本を読むのが好きで、読書を通じて、数多くの女性たちを遍歴してきましたがその名前のいくつかが、今、はっきりと心に蘇ってきます。それと共に、この世の中で長年女性が置かれてきた弱い立場、背負ってきた過重な負担を取り除き、女も男も子供も大人も、あらゆる人間が今よりもう少し楽に息をして平和に暮らすためには、この世の骨組みを変えることが必要だと考えるようになっています。「じゃなかしゃば」という言葉は、九州水俣地方の方言で「いまのようではない世の中」という意味だそうです。程なくこの娑婆を去る者として、今の世界とは異なる世界になってほしいという私の願いを、この味わい深い言葉に託しました。…………
この特集記事を読み終えた時、深い感動を受けていた。
*帰り道本屋さんに立ち寄り、この雑誌をつい買ってしまったのだった。