『天高く馬肥ゆる秋』
今朝から、そう言ってもいいくらいのぬけるような秋の青空。
久しぶりに二日続いて陽の光が眩しいくらいだった。
昨日は所用で、早朝から岡山方面に出かけ、帰宅したのは夕方。往復420km走った。
3番目の義姉を乗せていたので、無意識のうちにもかなり気を使ったらしく、夕食後
早々と寝てしまった。今朝目覚めてみると、昨日に続き早朝から空が晴れ渡り、とっても気持ち良く過ごせそうな期待感がふくらんだ。
「ああ、いいお天気だ。気持ちがいいなぁ」
そう思いながら、ふと先週のあたふたとした土曜日を思い出した。
午前中は天気を心配しながら何とか始まった孫たちの運動会に行き、
午後はすぐ近くにある西宮芸術文化センターに急いで移動、コンサートを楽しんだ。
午後2時、コンサートは始まった。
ピアニスト : シプリアン・カツァリス
〜 親和力〜 つながる、変化する、融合する
ピアニストの名前も初めて聞くものであったしプログラム構成も一風変わっていた。
「どのようなピアニストなのだろうか?
どのような演奏をするのだろうか?」
興味津々だった。
プログラムの解説には次のように書かれていた。
ドイツの文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749-1832)が書いた作品は、多くの作曲家にインスピレーションを与え続けてきました。今回のシプリアン・カツァリスが提示した「親和力」という言葉自体も、ゲーテが書いた小説『親和力』
(Die Wahlverwandtschafen)の題名に由来しています。今回のリサイタルは、この言葉から連想されるように、関連性を持った作品の組み合わせで、プログラムが構成されました。
またピアニストの解説には次のように書かれていた。
主なところだけ記すと、
ピアニスト、シプリアン・カツァリスは、1951年マルセイユ生まれのキプロス系フランス人。ピアニスト兼作曲家。幼少期をカメルーンで過ごし、4歳からピアノを習い始めた。パリ音楽院卒。さまざまな音楽コンクールで賞をとり、国際的に活躍して
いる。1997年に「ユネスコ平和芸術家」に任命され関連のコンサートに参加している。東日本大震災に際しては「放射能汚染も地震も怖くないので、いつでも被災者の方達を励ましに、演奏会に行く準備はできている」とメッセージを送り、その年に来日した際には、多くのチャリティーコンサートを行い、義援金も送っている。
またマルク・ツィツマン(チューリッヒ・日刊新聞《ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング》パリ文化特派員)は、《親和力》について次のような記事を書いている。
(プログラムのリーフレットから)
《親和力》について
1809年、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテが、おそらくは彼の最高の小説となるものを出版した。《親和力》である。この題名は、自然科学に熱中していたゲーテが、当時の科学分野から題名を拝借したものである。「親和力」とは、2つの化合物が接触する時に起こる現象を指し示す用語である。(訳注/正確には、2つの化合物の反応のしやすさの度合いを示す用語)。もしも親和力が十分強ければ、元素はそれぞれの化合物から自ら分離して互いに自由になり、新しく結びつくことができる。この親和力が、小説の主人公たち(エードゥアルトとシャルロッテの夫婦、そして彼らの客のオットーとオッティーリエ)の身に多少とも降りかかることになるのである。(訳注/ゲーテの《親和力》は、科学的化合力にも対比できるような、互いに惹かれ合う人間の不可避的な情熱と倫理観を対立させた作品) 比喩的な意味で言えば、新しい関係を形成するこの手法は、プログラムを組み立てる際の論理を説明したものとも言える。時代と文化的背景の異なる作品が、様々な親和力に従って、グループ形成しているのである。そういった組み合わせによって、「親和力」は純粋に文学的な性質を持っていると言えるだろう。
パンフレットには、
「次なる冒険は いかに」と書かれていた。
この言葉どうり、通常の一般的な曲目の選び方ではなく、
あくまでも一風変わった選曲の仕方だと考えざるをえなかった。
演奏される曲を聴いていくに従って
「なるほどなぁ。このよう名プログラムの構成もおもしろいものだなぁ」
と変に納得してしまったが、ごく普通のプログラム構成で行われる演奏会に比べる
と、正直な話、まさに「冒険」であると思った。
しかし、彼に演奏自体は音を響かせる心地よい弾き方だった。
一曲一曲は素晴らしいのだが、全体としてはやはり変わった演奏会であり、
「次なる冒険はいかに」の言葉通り、心を込めて弾くというより「冒険」だった
のだと思ってしまうものが心に残ったのは残念だった。
しかし、ただ一つ、最後のアンコールだけは違った。
人の心に響くものがあったように思われた。
彼は壇上で言った。
「アンコール曲は、ショパンの葬送行進曲です。
最近亡くなられたピアニスト・中村紘子さんに捧げます。
拍手はしないでください」
彼の気持ちがこもった演奏だった。
「冒険」の演奏とは全く異なり彼の全身全霊が込められたような見事な演奏だった。
ま葬送行進曲だと思わせられてしまうような、心のこもった、魂を込めた演奏だった。
「心を込めて弾けば、必ず他人の心に響く演奏ができる」
演奏を聴いている間ずーっと、中村紘子さんのあの何ともいえない愛くるしい笑顔が
目に浮かんでいた。
終わり良ければすべて良し。
いい時間を過ごせた演奏会だった。
【プログラム】
〈第1部〉
ベートーヴェン:エグモント序曲 作品84
メンデルスゾーン/リスト: 7つの歌より「ズライカ」作品34-4
シューマン : ノヴェレッテ 第1番ヘ長調 作品21-1
プーランク : ノヴェレッテ 第3番 ホ短調 EP173
ジャン=パティスト・ルイエ : クーラント ホ短調
コドフスキー : ルネッサンス 第10番 ルイエのクーラントの自由な編曲
リスト : ハンガリー狂詩曲 第13番 イ短調 S224
J・シュトラウス2世 : ウィーン気質
ー 休憩 ー
ラヴェル : 「マ・メール・ロア」より第3番 パゴダの女王レドロネット
日本の曲
フォンタナ : マズルカ ホ短調 作品21-2
ショパン : マズルカ 嬰ハ短調 作品2163-3
シューマン : 謝肉祭 作品9より 第12番"ショパン"
カツァリス : ありがとう、ショパン
パンチョ・ヴラディゲロフ : 印象 作品9より 第8番 パッション
ガーシュウイン : 私の彼氏 (Tha Man I Love)
エイブラム・チェイシンズ : プレリュード 変ロ短調 作品12-3
ラフマニノフ : プレリュード ニ長調 作品23-4
カツァリス : さようなら ラフマニノフ
〈アンコール曲〉
ショパン : 葬送行進曲