「あ〜あぁ〜、どしゃ降り…」
昨日は 朝からどしゃ降りだった。
午後、主人のかつての教え子二人が わが家に遊びにくる予定だった。
先月末からの約束。
一昨日から主人は落ち着かなかった。
「お土産に何を持って帰ってもらおうか? 遠いところわざわざ来てくれるんやから」
そのことばかりが頭にあり、そわそわしていた。
「生前の主人の母そっくりになってきたなぁ」と密かに心の中で笑った。
「すみませ〜ん。私、最強の雨女なんです!
ずいぶん前、ドバイに行った時も、40年来の雨とかで 普段 まったく降らない雨に
遭遇。どしゃ降りでした。小さい時からここぞというときは決まって雨なんです」
かつての教え子H君とMさんは、午後3時過ぎ、激しく降る雨の中訪ねてきてくれた。
5月11日の誕生日で、主人は古希を迎える。
彼らのかつての担任であった主人の『古希のお祝い』を、
かつての教え子たちが再び集まってみんなで祝ってくれるという。
その日程と場所を決めるために、わざわざ訪ねてきてくれたのだった。
その嬉しそうな彼の様子を見ていると、私まで何となく嬉しくなった。
「チーズケーキを焼いたので、コーヒーといっしょにどうぞ」
言うと同時に嬉しい言葉が返ってきた。
「わあ、嬉しいっ!
懐かしいなぁ。奥さんの手作りのケーキ。あの時はどんなに嬉しかったことか。
何か行事があるたびに奥さんの手作りのケーキと先生のおごりのジュースが出てきた
クラスだった。変わった先生やなぁと思いながら生徒としてはめっちゃ嬉しかった。
奥さんに会ったら絶対にお礼を言わなければと思っていたんです」
H君の、思ってもいなかった言葉。
「ええっ、そうだった?
そんなに何度もケーキを焼いていたかなぁ」
全く覚えていなかった。
当時からケーキを焼くことは好きだった。
大きなオーブン皿いっぱいの大きさの四角いアップルパイをよく焼いていた。
しかし、私の記憶の中では そんなに何度も彼らのためにケーキを焼いたという覚え
はない。全く覚えていない。まだ小さかった子供3人をかかえ、日々忙しく走り回っていたことしか覚えていなかった。
《当時の学級通信》
「昨日彼らが来る前に、このファイルを何処に入れたんやろうと思って探したんや。
行事があるたびに 生徒に何か書かせたり、自分で旅行記や雑感を書いたりして学級通信という形でよく出していた。もっちゃん(長女)やマック(長男)にも挿絵を描いてもらってる。若かったんやなぁ。今となっては懐かしい。読んでいると、今まで忘れていたいろんなことが思い出される。人の記憶ってそんなもんなんやろなぁ。」
今朝 主人がかつての学級通信の原稿をまとめたファイルを私に見せてくれた。
その途端、私も忘れていた当時のいろんなことを、突然、思い出した。
3人の子供たちとの楽しかった毎日、主人の同僚との家族を含めた付き合い、仲間たちのマンションへの引越し祝いや新築祝い等でみんなで集まり、持ち寄りパーティーをしたこと等々。30代の若かった日々が、突然、心の中に現れ、輝きだした。
懐かしい気持ちでいっぱいになった。
人の記憶は時間の経過とともに薄れ、忘れて行く。
しかし、写真やこのようの文章などがあれば、それをきっかけに再び思い出す。
「記憶とはそのようなものなのだろうなぁ」
今日は朝から、
再び思い出した懐かしい当時のことの話で二人の会話は盛り上がったのだった。