人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『タイムテーブル (時刻表)が愛読書』

絵の帰り本屋さんで立ち読みした。
その時 ある雑誌に おもしろい随筆を見つけ、思わず買ってしまった。

『鉄路(てつろ)』・ 文と絵・ 森 武生 (外科医)

「飛行機の旅は随分してきたけれど、心がワクワクする旅は、やはり汽車の旅で
ある。空路はあるポイントから別のポイントへひょいと持ち上げて降ろされるだけ
である。鉄路は自分の行きたいところへ地面を這ってでも行き着くところに良さが
ある。その国やその地方の人たちを眺め、窓の外は雲が流れ、特有の家や田園が
広がり、旅情を誘う」

随筆はこのような文章で始まっていた。

「そうだ、ほんとうにそうだ!」
手をたたいて、声をあげたいほどだった。

ヨーロッパ、特に鉄道発祥の国イギリスの鉄道事情と日本の鉄道との比較、
何故か時刻表好きだった子供時代の話、小学校高学年の時の父親との汽車旅行の話
等が書かれていた。

中でも“トーマスクック”のくだりはおもしろかった。

『タイムテーブル (時刻表)が愛読書』_b0344816_22215597.jpg
《私の古いトーマスクック》


「長じてトーマスクックのヨーロッパの時刻表が愛読書となった。外国へ行くのは学会発表のときだけで、時間はなく、飛行機によらなければならなかったが、その国の中は鉄道旅行をして、その国の大地や人々に肌で触れたかった。トーマスクックは結構解読が難しかったが旅程を作って乗り回った。………イギリス、フランス、ドイツなど汽車旅をした外国は10カ国以上になり、それぞれいまは良い思い出である。私のように仏頂面だと飛行機では人に話しかけられないが、列車では変な外国人と思うのか、けっこう話をしたり、食べ物をもらったり、その国の人たちの人間的な側面を知ることが出来た。汽車旅だから出来た経験が多い」

私も何故か電車旅が好きだ。
学生時代からいつも時刻表は旅の友だった。

ある時夏合宿の帰り 長野駅から大阪まで北陸周りで帰ろうと一人電車に飛び乗った。
直江津で大阪行きに乗り換えしばらくした頃、
見知らぬおじさんから「席が空いているからここに座ったら」と声をかけられた。
話してみると同郷の人でその当時北海道に住んでいた人だとわかった。
お城のそばの小さな写真館の話になり、「知っている」と答えると、
嬉しかったのか記念にとアンモナイトの化石をくれたのだった。
その人の住む白老町の近くにはアンモナイトの化石がたくさん取れるのだと言って。
今でも直江津という駅名を聞くと思い出す。

また、ヨーロッパに行く時はいつも“トーマスクックのタイムテーブル”を持参する。
この作者が言っているように、“タイムテーブルを読む”のは ほんとうにおもしろい。
自分の旅程と時刻表を見比べて、乗れるかもしれない電車をピックアップしたり、
思いがけず立ち寄れるかもしれないまだ見ぬ街を見つけたりすることの楽しさは
何事にも変えがたいものがある。

5年前、友人2人を訪ねてドイツに行った時、南独の友人の家(ウルム)から北独の友人
の家(ハンブルグ)への移動の途中に サンモリッツで4日ほど息抜きをした。サンモリッツからチューリッヒまで行き、ナイトトレイン(夜行列車)でハンブルグに行く予定だった。列車がサンモリッツ駅を出発し、車窓の景色を見ながら、夕方までチューリ
ッヒでどう過ごそうか考え、トーマスクックのタイムテーブルを見ていた。
以前からなんとなく「ザンクトガレンに行きたいなぁ」とは思っていた。

ふっと、思った。
「寄れるのではないか」と。

『タイムテーブル (時刻表)が愛読書』_b0344816_18342688.jpg
トーマスクック・スイス編の最初にある鉄道地図
各国の鉄道地図を見るのも好き

『タイムテーブル (時刻表)が愛読書』_b0344816_22331606.jpg
サンモリッツからチューリッヒに行く途中、
このページで ザンクトガレンに寄れることがわかった



調べてみてわかった。

クールでの街歩きを諦め電車を乗り換えザンクトガレンまで行けば、インフォーメイションセンター主催のガイドツアーに参加でき、その後、夕方まで街の中を見て回れ
る。それからチューリッヒ行きの列車に乗っても夜行列車には十分間に合う時間に
チューリッヒ駅に着くことができる。

ガイドツアー参加は正解だった。
ツアー客は、ドイツ人夫婦と私の2人。彼らは英語がわかるということだったので、
英語でのガイドになった。繊維博物館とザンクトガレンの大聖堂、付属の図書館(世
界遺産)を案内し、説明してくれた。想像以上にすばらしい経験が出来た。ガイドを
入れて4人でいろいろと喋りながらの見学はおもしろく、興味深かった。最近のカソリック教会での“告白ブース”事情を聞いて驚いたり、中世に作られたという立派な図書館の装飾の見事さ、蔵書の整理システムのあざやかさに目を見張ったものだった。初めて会ったドイツ人夫婦ともすぐに打ち解け仲良くなれ、楽しい心に残る時間が過ごせた。

もし、タイムテーブルを詳しく見ていなかったら、ザンクトガレンには行けてなかったことだろう。途中、アルプスの少女ハイジの話に出てくるラガーディア温泉の近くを電車が通り、「ああここが…」と思い出したのも懐かしい。

改めて思う。
「タイムテーブルを“読む”ことができることによって、旅に予想外の経験や人との
出会いなどが加算され、その旅が味わい深い旅になる」

今の時代は、ハイテク機器のおかげで超便利な世の中になった。
時刻表すら必要なく、Webサイトの路線で調べればすぐに時刻表はわかり、
乗換駅、時間、料金等も一目瞭然、すぐにわかる時代になった。

しかし、
『タイムテーブルが愛読書』と言い、それを楽しめる人はどれだけいるだろうか?

心にゆとりを持ち、時代に流されずに、自分の時間を楽しみたいと思う。



Commented by namiheiii at 2015-08-14 11:25
私の家内が昔から時刻表好きです。ローカル線でも各駅停車が好きでした。私が動けなくなって、旅に出られなくなりました。それでも時刻表を熱心に見ています。時刻表そのものが楽しいのか、それとも独りになったら独り旅に出かけるためなのか?
Commented by ericanada at 2015-08-14 14:08
私も時刻表見るの好きです。好きでした。今は時刻表が手に入らなくて残念。
ザンクトガレン、私も去年行きましたよ。
あの美しい図書館がどうしても見たくて!
ガイドツアーもあったんですね。
少人数のツアーだと打ち解けやすくていいですね。
告白ブース事情って何だろう?
Commented by PochiPochi-2-s at 2015-08-14 16:45
namiheiiiさま

そりゃ、時刻表そのものが楽しいのですよ。きっと。
私は、知らない街、知らない駅名を見て、「其処はどんなところだろう」「どのような人が住んでいるんだろう」と想像するだけで楽しくなります。

以前、青春18切符で一人、長野駅大阪まで帰ったことがあります。
鈍行の乗り継ぎばかりでしたが、おもしろかったです。
奥様もきっとそうですよ。
想像が楽しいのです。
Commented by PochiPochi-2-s at 2015-08-14 19:22
ericanadaさま

“同類項”がいて嬉しいです!
知らない街を想像するのが楽しいですね。
それと空想旅行をするのも。
日本地図や世界地図を見るのも好きです。

ザンクトガレン。やはり行かれましたか。
告白ブースとは、牧師に懺悔をするためのカーテンで仕切られた箱のような場所(?)正式にはなんと言うのでしょうか?
コンフェッショナル?懺悔室?

ガイドの話では、
「最近では悩み事も複雑になり、牧師では相談にのれない内容の
ことも多いらしく、一週間のうち何日かは、カーテンの向こう側
で、牧師の代わりに精神科医が牧師になり代って告白を聞いている」という裏事情です。もちろん、告白している信者は、こういうことが裏でなされているとは、全く知らないということでした。
それだけ悩んでいる人が多く、一日中教会でお祈りしている人も多いと聞きました。特にお年寄りが。
名前
URL
削除用パスワード
by PochiPochi-2-s | 2015-08-12 22:50 | 読書 | Comments(4)

生きている喜びを感じられるように生活したい


by PochiPochi-2-s