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『大晦日のローストビーフ』

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今年も今日を入れてあと2日。
お正月の準備に今日は一日台所で過ごした。
朝からぽかぽかと暖かかったので、台所にいても寒い思いはしなかったのがありがたかった。

お昼頃からお正月用にローストビーフを焼いていた。
その時ふっと昔読んだ本のタイトルが頭をよぎった。
タイトルは、『大晦日のローストビーフ』(秋山ちえ子・著、文春文庫)。
手元にあるこの本を、いつ、何を思って買ったのかは今となっては覚えていない。
しかし何度も何度も読み返したらしく、表紙はかなりヨレヨレになっている。
この本には忘れえぬ人々との出逢いを語った23の美しい物語が収められている。
その中でもこの本のタイトルになっている『大晦日のローストビーフ』は、印象深く、
コックになった長男の巣立ちをめぐる母親と子供の交流が描かれているので、
いつまでも心に残る作品である。

この物語は次にような文章ではじまっている。
我が家の正月料理には「ローストビーフ」がおせち料理としておさまりかえる。これは、長男が毎年12月31日に自分で焼いて届けてくれるもので、、牛のロース、3キロか4キロの「ローストビーフ」は、見事というより他はない。
30日になると、白い金巾の布で包んである包丁を出して明日にそなえる。クレソン(西洋水ゼリ)、ホースラディッシュ(西洋ワサビ)を用意する。お皿はどれにしようかと大皿を出して見比べる。楽しいひと時だが、「ローストビーフ」がしっかりと届くまで私の心の中にかすかな不安がゆれ動く。これが届かないと、長男の生活に異変が起こったような気がするからだ。
12月31日の夜、「ローストビーフ」を切るのは誰にもやらせずに自分でする。一切れずつ心をこめて切る。肉の繊維の中に肉汁がほどよくもどってよい色を見せる「ローストビーフ」は、私の心の中に、過ぎてきた長男とのかかわりあいの日々を思い出させてくれるものであり、一年のしめくくりにふさわしいこととと思っている。

学校の勉強が性に合わなかった長男を、なんとか人並みにと思い、叱ったり、おだてたり、はげましたり、絶望して泣いたりした日々をくり返したあと、自分の子供の教育を真剣に考えるようになったこと。また、教育に公式があるはずはない、教育は一つ一つの命が持っている宝探しである、学校で見つけ出せない宝を持った子もいるはずだから、勉強の出来ない子が「ダメ」な人間というのはおかしい、いつか学校以外に生活の中で宝は探し出されるはずであると考えるようになったことなどが書かれている。
その後、長男は高校を出てコックになり、料理をやりだすと見違えるように生き生きしだした。学校の時は一度も見たこともない光景に家族は唖然とし、彼の宝は料理をする才能だったかもと思うようになった。5年後、彼は勤務先のレストランで認められ、ビフテキやローストビーフを焼くことができる“ストーブ前”の仕事を任された。その年の暮れの31日、彼はお歳暮として自分で焼いた「ローストビーフ」を母親に差し出した。しかし、その後、思い込んだら一直線の性格の彼が、職場での人間関係からノイローゼになったり、ノイローゼの症状から回復しだした頃70年安保の闘争に加わろうしたりする。母親は心配したり打ちのめされたように感じたり、錯乱状態のようになる。しかし、母親は最後には はっきりと母としての意見を言い、子供と真剣に向かい合う。その結果彼は安保闘争には参加せず、その前年の1969年の12月31日、自分で焼いた「ローストビーフ」が暮れのお歳暮として母親に贈られた。彼による二度目のローストビーフで、第一回目から4年の歳月がたっていた。

この物語のことを思っていた時、次男からのずいぶん久しぶりのメールがあった。
「ハル、アサヒ、リョウちゃん、エイちゃん、ケイスケ君たちに僕からと言ってお年玉をあげてほしい。お金は後でお母さんの口座に振り込むから悪いけど立て替えてほしい。お正月は年末年始の特別電車運行の応対の当番が当たってしまったので今年も帰れない。お兄ちゃんお姉ちゃんによろしく言っておいてほしい。仕事と忘年会で忙しくカレンダーが遅くなってしまってごめん」

兄や姉に比べ、次男は何事もゆっくりとのんびりと育ったので、母親にとっては小さい時からなにかにつけて手のかかる子であり、心配することが多かった。私には、この物語の長男が私の次男とある意味重なるように思われるのである。
この物語のように、母親というのはこんなものかもしれないと思った。
子供の成長が嬉しくてならない反面、ふとしたことが心配になり安心できない。
それだけにこの物語が強く心に響いたのかもしれなかった。

次男からのメールを見て、
「まあ今までいろいろとあったあのとっくんが何と成長したことか!」
と思うと、感慨深いものがあった。
喜びが大きいと、苦しかった時のことは忘れ、嬉しかったことだけが残る。
不思議なものである。

『大晦日のローストビーフ』
いつまでも心に残る物語である。



Commented by jarippe at 2017-12-31 07:37
人それぞれとは思いつつも・・・・・
我が家にも悩ませる娘が 悩ませていてくれます
今日その娘が帰省します
長女は娘が勉強嫌いでイライラしています
・・・・・成人した子供だから自分の人生自分で切り開いて
と思ってはいるのですが
至らぬ親がいたらぬ子や孫にしてしまったかと因果を感じています
今更どうにもならないのですが
夕べもう一人の娘が帰省し少しずつ新年を迎える気分になってきました
これも今更ですね
Commented by PochiPochi-2-s at 2017-12-31 12:38
☆ jarippeさん

こんにちは。
今頃は忙しくしてられるだろうなぁと思っています。

まあ、人それぞれ。
この物語のようにいわゆる学校の勉強だけが全てではないと
私も思ってます。次男の成長過程を考えるとなおさらそう思います。
そして小1の時出会った担任の先生に感謝です。
ある時大人になった次男のことを手紙に書きましたら、
「教師冥利に尽きます」との言葉がありました。
きっと今の次男の姿を想像もできなかったのでしょう。

未来は誰もわからないと思います。
きっといいことがたくさんやってきますよ。
人の人生の最後は”プラスマイナス0“で終わるといつも思っています。

ご家族揃って賑やかな楽しい、良き新年をお迎えください。
一年間訪問してくださってありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
Commented by weloveai at 2017-12-31 15:42
私の高校生の時、秋山ちえ子先生の講演が学校でありました。
その時、この息子さんのお話を聞いた記憶があります。
文章を読んで知ってると言う事は間違いないと思います。
運動部でしたから誰の講演でも睡眠の時間にあててただったのですが聞いていたようです。(笑)
↑ >人の人生の最後は”プラスマイナス0
私もそう思ってます。

今年も色々ありがとうございました。
準備万端ですね
賑やかに良いお年をお迎えください。
Commented by sidediscussion at 2017-12-31 15:43
いいローストビーフの物語ご馳走になりました。
寒い大晦日です。お孫さんたちとの賑やかなお正月楽しくお過ごしください。

ご一族のご多幸を祈ります。

来年もよろしく。
Commented by pallet-sorairo at 2017-12-31 15:52
いま、ちょうどローストビーフをグレービーソースまで仕上げて
完成したところです(^^ゞ
二日の家族の集まりで切り分けますが、
さてうまくできているかなぁ、心配(^^ゞ
生き生きとしたPochipochiさんの毎日を読ませていただくのが楽しみでした。
続々と完成する絵にも感心するばかりでした。
ありがとうございました。
来る年もまた、日々のあれこれをお知らせくださるのを楽しみにしています。
よいお年を♪
Commented by sternenlied2 at 2017-12-31 17:16
大晦日のローストビーフ、なんかロマンがありますね。
今日の食事にはインドのほうれん草のカレーと、
マデイラで食べて美味しく思ったマデイラ名物の
Bolo do Cacoと呼ばれるサツマイモのピュレーを
混ぜたパンを作ってみようと、今サツマイモを茹でたところです。
今年も1年充実した記事で楽しませていただきありがとうございました。
来年も楽しみにしています♪
ご家族お揃いで素敵な大晦日を和やかにお過ごしくださいね!
Commented by PochiPochi-2-s at 2017-12-31 20:48
☆ weloveaiさん

そうでしたか。
直接本人から聞かれたのですね。
このタイトルに惹かれて買ったのですが、いい話だなぁと感動したものです。

まあユスラウメさんもそう思われますか?
長い人生の間に生じたプラスとマイナス。清算して0で終わり。
そう思うとつじつまが合うような気になります。

こちらこそ。ありがとうございました。
ゆすらうめさんも良いお正月をお迎えください。
Commented by PochiPochi-2-s at 2017-12-31 20:52
☆ sidediscussionさん

この話、いいでしょう?
好きで何度も読んでいます。

ありがとうございます。
明日は賑やかになるでしょう。
アサヒがやって来ますから。

ありがとうございます。
sideさんにとっても、平和で穏やかないいお正月になりますように。
こちらこそ。
来年もよろしくお願いします。
Commented by PochiPochi-2-s at 2017-12-31 21:12
☆ pallet-sorairoさん

きっとうまくいってますよ。
ローストビーフは少しおいた方が味が落ち着いておいしいと思いますよ。
切り分けるのが楽しみですね♪

ふふ、元気だけは…
来年はもう少し活発に動きたいなぁと思ってます。
やっとです。
来年もなんとか頑張って続けたいなぁと思っています。
よろしくお願いしますね。

palletさんもいいお年を!




Commented by PochiPochi-2-s at 2017-12-31 22:03
☆ sternenliedさん

いよいよ今年もあと2時間余り。押し迫ってきました。
マデイラ名物のお料理、うまくできたでしょうか?

拙い文章で恥ずかしいですが、なんとかほぼ毎日かけました。
読んでくださってありがとうございました♪
来年もよろしくお願いします。

ありがとう。
静かなシニア家庭が賑やかに華やぎます。
楽しみ楽しみ♪

sternenlied さんもいい新年をお迎えください。
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by PochiPochi-2-s | 2017-12-30 23:10 | 読書 | Comments(10)

生きている喜びを感じられるように生活したい


by PochiPochi-2-s