『故郷を離るる歌』

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安野光雅「歌の風景」より『故郷を離るる歌』
ヘルマン・ヘッセの故郷カルブの風景



「あと9日でハルちゃんの卒業式だなぁ」

お父さんの仕事の関係で東京から大阪に戻ってきたのが、3歳の時だった。
東京の言葉が1ヶ月もしないうちに大阪弁になってしまった。
その彼が17日に小学校を卒業する。
4月からは中学生。
ずいぶん大きくなったものだ。
「最近は何をするにもお父さん(長男)そっくりになってきた。
父と息子、二人の持つ雰囲気が全くそっくりなのは見ていておもしろいなぁ」と、
朝、絵の教室に行く準備をしながら何気なく思っていた。

そして、ふと何の脈絡もなくこの安野光雅の画文集「歌の風景」を手に取った。
その中に『故郷を離るる歌』という題のエッセイがある。
安野光雅氏が、ヘッセが書いた彼の故郷カルブについての文章を読むうちに、自分の故郷の津和野にそっくりだと思いはじめ、ドイツへ行った折、ついにその町まで行って見たという。ヘッセは13歳の時に神学校に行くことになったが、傷つきやすい年ごろのへッセにとって神学校のある町にいるのは辛く、一年で学校をやめ別の高校へ行くことになるのだが、その学校も彼には合わず、退学してしまう。

安野光雅氏が描いたこの絵は、丘にのぼってカルブの町を見下ろしたところである。
「ヘッセがカルブの町を発つ時は悲しかっただろう」
と安野光雅氏はヘッセの気持ちに思いを馳せ、この絵を描いたようだ。

彼はエッセイの中で書いている。
《丘からこの町を眺めると、堰の水車小屋、いつも泳ぎにきた川、曲がった柳、そのほかたくさんのものが見えるが、それらはみんな「思い出」というものに結晶している。
「つくし摘みし岡辺よ 社の森よ 小鮒釣りし小川よ 柳の土手よ」
と、数え上げるそれらの風物は、すべて子どもの時代に結びついている。ほかの人にとってはなんでもない垣根の花も、小学校の傷んだ黒板も、いまは無残にかづけてしまわれたが、あのカラタチやポプラでも、よその土地のポプラとはまったく違うのだ。それらは故郷を離れるとき、心に刻むようにして別れてきた、思い出の手がかりなのだ。
故郷とは子ども時代のことなのである。》

今改めて自分を振り返ると、大学入学とともに故郷を離れ、そこで過ごした年月の2倍以上の年月を故郷以外の土地で過ごしてきた私には、「故郷を離れる」とは「子ども時代への決別」だったのかもかもしれないと、彼のエッセイを読んで思ったのだった。

9日後に小学校の卒業式を迎える、私にとって最初の孫のハルちゃんにも、
いつか生まれ育った故郷を離れるときがやってくるだろう。
そのとき彼は故郷のことをどのように思うだろうか?
いつか聞いてみたいものだ。


「故郷を離るる歌」

園小百合 撫子 垣根の千草
今日は汝をながむる 最終の日なり
おもえば涙 膝をひたす
さらば故郷
※ さらば故郷 さらば故郷
故郷さらば
さらば故郷 さらば故郷
故郷さらば

つくし摘みし岡辺よ 社の森よ
小鮒釣り小川よ 柳の土手よ
別るる我を 憐れと見よ
さらば故郷
※ くりかえし

此処に立ちて さらばと 別れを告げん
山の蔭の故郷 静かに眠れ
夕日は落ちて たそがれたり
さらば故郷
※ くりかえし



* * *


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ヘルマン・ヘッセといえば、若かかった頃、「車輪の下」や「デミアン」「シダールタ」「青春は美わし」などを読み、彼の小説に一時夢中になったことがあったが、ここ何年かはこの「庭仕事の愉しみ」「我が心の故郷 アルプス南麓の村」の2冊を楽しんでいる。

特にこの「庭仕事の愉しみ」には、エッセイ12編、詩27編、叙事詩『庭でのひととき』、未完の小説『夢の家』、童話、手紙などが収録されており、訳者のあとがきには次のような文章が記されている。

《心から自然を愛するヘッセが、花づくり、野菜づくり、草むしり、焚き火などの庭仕事を通して、樹木や草花への愛、「一区画の土地に責任をもつ」ことの歓びと愉しみをしみじみとと語っている。庭仕事は、それによって文筆の仕事や日常生活の雑事からの開放感を味わうとともに、ヘッセにとって、思索と創造を生む素晴らしい瞑想のひとときであった。》

好きな音楽を聴きながら、この本を読んで過ごす時間も『至福の時』である。




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Commented by sternenlied2 at 2017-03-09 01:17
高校生の時にヘッセに夢中になってました。
ドイツに関心を持つようになったのもヘッセを通してでした。
私の青春の一時期に多くのインスピレーションを与えてくれた
ヘッセの故郷カルブに行ってみたいと思いながら、いまだ果たしてません。
今年こそ行ければいいのだけど。
庭仕事の愉しみと訳されているFreude am Garten、持ってますよ。
ヘッセは小説よりも随筆集の方が好きですね。とても味わい深くて楽しめます。
Commented by pallet-sorairo at 2017-03-09 08:59
「故郷を離るる歌」なんと懐かしい!
よく歌ったものなのにすっかり忘れていました。
きょうはこれからコーラスに出かけるので
先生に今度この歌の合唱曲をとりあげていただけるように言ってみようと思いました。

津和野にはPochiPochiさんもいらしたことがおありと思いますが
私が訪ねたときに丘の上から撮った写真がありますのでよろしければ…
→ http://sorairo02.exblog.jp/17456516/
Commented by PochiPochi-2-s at 2017-03-09 22:32
☆ sternenliedさん

そうでしたか。
確か以前ドイツにはヘッセ派とトーマスマン派があるとか言ってられましたね。
私はどちらかというと、トーマスマンの方が好きだと答えたように思うのですが…
おっしゃるように、エッセイや詩の方がいいですね。
カルブってどのようなところだろうと安野光雅のこの絵を見て想像しています。
ヘッセが晩年を過ごした南スイスにも行ってみたいなぁと思うこともあります。
すぐそばを何度かかすめているのですがねぇ〜(笑)
個人旅行は無駄が多いというか計画性がないというか、近くまで行っているのに…残念!
ということが多いですね。

ぜひカルブに行ってレポートしてください。
Commented by PochiPochi-2-s at 2017-03-09 22:47
☆ pallet-sorairoさん

こんばんは。
早速見せていただきました。
いい旅行をされましたね。

穏やかな平和ないい景色ですね。
こんな風景を見ると、日本はいいなぁと思います。
津和野は学生時代、津和野出身の友達がいました。
結婚して今は神戸の住民ですが。

この歌、取り上げてもらえましたか?
合唱となるとまた感じが変わるのでしょうか?
聞かせてもらいたいものです。

Commented by jarippe at 2017-03-10 06:12
昨日歌う会でこの歌を歌ってきました
歌にまつわる思い出が歌うごとに浮かびますねー
息子さんに似てきたお孫さんが小学校卒業されるんですね
これからお楽しみですね
Commented by PochiPochi-2-s at 2017-03-11 19:05
☆ jarippeさん

〉歌のまつわる思い出が歌うごとに浮かびますねー〈
本当にそうですね。

ある時おもしろいことを聞きました。
ずいぶん昔なので記憶も定かではないのですが。
同じ故郷を歌っても、
日本人にとっては、いつかきっと錦の御旗を掲げて意気揚々と帰ることを思い、
いつまでも懐かしく思い出すふるさとであり、
ドイツ人にとっては(この歌はドイツの歌)、新たなる出発に向け、キッパリと
別れを告げるのための故郷だと。
おもしろいなぁと思い聞いていました。

どのような中学生になるんでしょうね。
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by PochiPochi-2-s | 2017-03-08 23:22 | 読書 | Trackback | Comments(6)

生きている喜びを感じられるように生活したい


by PochiPochi-2-s