外は相変わらず寒く冷たい朝だったが、
それでも今日はほんの少しだけ暖かく感じた。
久しぶりに青空が見え、白い雲が浮かび、太陽が照っていた。
ウッドデッキの温度計もマイナスではなくプラスを示していた。
南面向きのリビングには日が差し込み、部屋の中はまるで温室のように暖かかった。
「こんな日は できたらこの部屋の中で過ごしたいなぁ」と思ったが、
今日は絵の教室の日だった。
いつもよりひとつ早い電車に乗れた。
次の駅に電車が着いた時、読んでいた本から目を離し 何気なく前を見た。
「あらっ、なんと優しい顔ををしているのだろう。
電車の中でいろんな親子を見るけれど、
こんなに優しい感じのいい顔をした若いお母さんを見るのは初めてだ。
なんて優しい雰囲気を醸し出しているのだろう!」
目の前に座っている"お母さんと赤ちゃん"に魅了されてしまった。
お母さんの少し大きな、灰色の暖かそうなオーバー(?)の中に包まれて、
可愛い男の子の赤ちゃんがその優しいお母さんの顔をじーっと眺めていた。
信頼しきっている眼ざし。
まるでラファエロが描く聖母子の絵のような親子だった。
「この親子の姿を絵に描きたいなぁ。雰囲気だけでも覚えておきたいなぁ」
私の心の中の何かが動いたような気がした。
こんな気持ちになったのは、初めてだった。
本を読むのも忘れ、乗り換え駅までこの親子から目を離すことができなかった。
こんなことも初めてだった。
親子は周囲のことなど全く気にもせず、お母さんは赤ちゃんを、赤ちゃんは
お母さんを、お互いに見つめあっては微笑んでいた。
乗り換え駅で降りた時、
何だか私の気持ちがほんわかと温かくなっているのに気づき嬉しくなったのだった。
絵の教室ではいつになく自分からすすんでよく喋っている私がいた。
こんなことも初めてとは言わないが、私には珍しいことだった。
それほどすてきなお母さんと赤ちゃん、二人が醸し出す魅力的な雰囲気だった。
ほんの一瞬だったがいい時間だった。
《ラファエロの聖母マリア》
(Web site より拝借しました)