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絵の具

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昨日の午後やっと落ち着いて描ける時間ができたので、ひとり絵を描こうとした。
いつもなら描き始めるとすーっと絵の中に入っていけるのだが、昨日は違っていた。
先週久しぶりに会った友人の話が心に重くのしかかりまだ尾を引いていたのだった。
昼食後それとなく話し始めた彼女の話は、前々から分かっていたことなのだが、
私には深刻な話でその直前に見た作品展の彼女の絵がどこかへ吹き飛ばされてしまったような気がしたのだった。

手元の絵の具を見ながら、
いつのまにか 彼女との出会い、絵の具にまつわる話を思い出していた。

友人Hさんとは、私が通っている絵の教室で知り合った。
もうずいぶん昔のことになる。
最初の日、どこに座ろうかと緊張し戸惑っていた私に、「ここに座ったら。空いているよ」と、誰よりも先に親切に、明るく声をかけてくれた人が彼女だった。
仲良くなるのに時間はかからなかった。
知っている人がひとりもいない教室に行くたびに彼女は話しかけてくれ、絵を描くということに全く何の知識もなく、ただ花の絵を描きたいという気持ちだけで通っていた私に、スケッチの仕方や色の塗り方を親切に教えてくれたのだった。
その頃の私には、先生は遠い存在だった。
初めてのこと、初めての場面ではいつも気後れのする性格だからかもしれなかった。

その頃から教室にとても美しい色で絵を描く人がいた。
絵の具はイギリス製の透明水彩絵の具・『Winsor & Newton』 だった。
当時 外国製の絵の具は 私の住む周辺ではほとんど見かけることもなかった。
「いったいどのような絵の具なのだろう。どこで買うことができるのだろうか?」
その絵の具が、珍しく、興味深かった。
聞けば、パイロットのご主人のロンドン土産だと言っていた。
『Winsor & Newton』という名前だけが耳に残った。

「いつかロンドンに行くような機会ができたら、一番最初に画材屋さんに行って
このWinsor & Newtonを買いたね」
絵の具の名前は、彼女と私の合言葉になっていた。
再び海外旅行に行き始めたのはこの時から何年か後のこと。
ロンドンはまだまだ憧れの地であり、この絵の具もまた憧れの絵の具だった。

「私、東京転勤になった娘家族と一緒にしばらく東京に行こうと思ってるの」
ある時 Hさんから突然打ち明けられた。
知り合ってから5、6年は経っていた。
彼女のお陰で私も少しはまともな絵が描けるようになり、もう少し頑張って続けてみようと思い始めた頃だった。
「東京でも、やめずに花の絵を描き続けてほしいなぁ」
お世話になったお礼に、何か思い出深いものをプレゼントしたかった。
ちょうどその頃、やっとのことで梅田の画材屋さんでこの絵の具を見つけていたが、あまりにも高価で私にはもったいないなぁと思い、いつも眺めては諦めていたこの絵の具をプレゼントしようと、すぐに思い立ったのだった。
大胆にも、清水の舞台から飛び降りるような気持ちで2セット購入した。一つをHさんにもう一つを私にと。お互いにこれからも頑張って絵を描きましょうと約束をした。

今でもHさんはこの時私がプレゼントしたWinsor & Newtonを使ってくれている。
よく使う色は度々買い換え補充するが、ケースは当時のままである。

先週聞いたHさんの話は私の心に重くのしかかったが、
「まあ物は考えよう。これからの人生、この絵の具にようにさまざまな色があっていいのではないか。ひとそれぞれ、各自の思うように生きてゆけばいいのではないか」
と、思い出の絵の具を眺めながらそう思ったのだった。
ほんの少しだけ気持ちが楽になった。
しかし、絵は描けなかった。

黄昏に向かう夫婦の在り方の難しさを考えたここ数日だった。


Commented by echalotelle at 2016-10-21 21:53
使いこまれたパレット、いいですね♪PochipochiさんがプレゼントしたパレットをHさんが使ってくれているのも嬉しいことですね。
夫婦も家族も、いろんなあり方がありますね。
80を過ぎた父が、「いろんな生き方があっていいんだよね~」とよく言っていたのを思い出します。
ご夫婦揃って黄昏に向かえるのは羨ましいとも思いますが、生きているといろんな問題も起こってきますね。
夫婦でも家族でも、それぞれの生き方を尊重できるといいなと思いますが、それが難しいんですよね・・・

我が町にたった一軒ある大きな文房具店では、絵の具は主にWinsor & Newtonのものを売っていますよ。私もいつか、これを使いたいな。(*‘∀‘)
Commented by jarippe at 2016-10-22 06:18
晩年の夫婦ってねー
私も先日来た義兄夫婦との話の中でいろいろ感じていました
この夫婦いつもとっても仲が良くて
会うたびにいいなーって思います
そしてこれからはますます夫婦の関係を
強くしていかねばならないのかもーって思ったのです
文句や愚痴ばかり言いたくなりますが・・・・・
Commented by asitano_kaze at 2016-10-22 12:22
年季の入ったパレットを見て、そのひとの来し方もしるされているように思いました。
絵筆をとられたその時々の想いが重なっているような気がします。
歳月が流れると、思いもよらぬことがありますよね。
様々な色に染まることはあっても、結局自分の色は自分にしか作り得ないですね。
Commented by PochiPochi-2-s at 2016-10-23 19:44
☆ echalotelleさん

そうですね。
いろいろ考えると難しいことが多いですね。

ただ言えることは、ここまで元気にこれたんだし、
長い道のりをなんとか一緒にやってきたのだから、
あとはできるだけ健康に気をつけて仲良くいけたら
いいのになぁ〜と思うのですが…。
そうはいかない人も多いみたいですね。

まあ、なるようにしかならないし、
今のご時世、自分で自覚して選んでいる限り
いろんな生き方があっていいのかなと思っています。


Commented by PochiPochi-2-s at 2016-10-23 19:55
☆ jarippeさん

jarippeさんの言われるとおりですね。
ここまで来たのだから、これからもできる限り仲良くいきたいね、
お互いに相手を気遣うことができればなぁと思うのですが…
そうでもない人もいるようですね。
まあ、人それぞれ十人十色というところかな。
Commented by PochiPochi-2-s at 2016-10-23 20:21
☆ asitano_kazeさん

そうですね。
その時々の思いが重なっているのかもしれませんね。
彼女に話を聞いていて、正直な話、結婚ってなんだろうと思いました。
何事においてもそうですが、相手に対する思いやりや優しさが必要
なんだろうなぁと。
難しいですね。




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by PochiPochi-2-s | 2016-10-21 13:17 | 思い | Comments(6)

生きている喜びを感じられるように生活したい


by PochiPochi-2-s