一、イブニング・ドレス
レマン湖畔の坂の街、ローザンヌとモントレー、中世の古城、それにボートツアー。モントレーでの3日はまるで夢のように過ぎ去った。
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シヨン(シロン)城からの帰途、湖畔の静かなレストランにて早めの夕食。ワイン=グラスを傾けながら、たっぷり時間をかけて料理を味わう。囲りの観光客も皆ゆったりと語らいを楽しんでいる。誰に気遣うこともなく食事(ディナー)を楽しむ。空腹を満たすのみの「外食文化」に慣れ親しんだ私たちにとって、その楽しみ方に戸惑いを感じることさえしばしばあった。忍耐の時間は美酒と歓談の時間なのである。時こそ余裕(ゆとり)。それが西洋「食文化」の一断面なのだ。
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異なる「食文化(習慣)」もさることながら、「衣の文化(習慣)」も興味深いものである。
ホテルに帰った私たち、翌朝の出発に備えて荷物整理・荷造りに忙しく、時はすでに9時近くになっていた。急いで子供たちを寝かせ、トマス=クック(欧州時刻表)を繰(く)る。(計画・立案係は妻の役)。
私は、清算のためフロント・デスクへ下りていった。と……まるで自分の目を疑いたくなる程、グランド・フロントの様子が変っているではないか。
カウンターのブロンド美人嬢、Gパンにブラウスのラフなスタイルが「トレードマーク」。その彼女が何と淡いブルーのドレスを着ているではないか。彼女のみならず、ホテルのレストラン、バー、いたるところ まるで「舞踏会」の如く着飾った男女(ペア)が闊歩している。「正装」して出直しと気を弾ませ部屋に戻ると、妻はすでに夢の中。その時起こさなかったことを、今だになじるのである。
二、 「専用車」
モントレーからグリンデルワルドへの列車の旅。いよいよスイスの山間へと旅は続く。7月26日(月)、モントレー駅より「パノラミック=エクスプレス(展望特急)」に乗る。天井の大半まで窓が開いた山間観光特別列車である。幸いにも「ユーレイル・パス」が効き、豪華な「一等車」に。
アメリカ人学生男女(ペア)、背中に大きなザックを背負い乗車。話を聞くと、夏休みを利用し、ヨーロッパケチケチ旅行とか。テントと列車が寝ぐらということ。そういえば、前々日、この駅で若い日本の女子学生が一人、列車待ちをしていた。ウィーンにいる友人を訪ねるとか。アメリカ人男女(ペア)といい、日本人女子学生といい、若い間の旅行は身軽で無理がきいてよいものだ。ヨーロッパ旅行中、数えきれないほど彼らに会った。
但し、先程のアメリカ人男女(ペア)、「ユーレイル・ユースパス」のため二等車へ、「スイス・ホリデーカード」をもったインド人観光客もそれぞれ二等車へ、車掌が案内。一等車は私たち専用車になってしまった。
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列車は、急勾配をゆっくり登りはじめ、レマン湖を眼下に見下ろす。あっという間に山間にはいり、緑の山裾と木造りの小屋(シャレー)の風景が続く。山間の小さな駅は、白壁にこげ茶の柱、ペゴニアの花。踏切では列車に手を振る老人の姿。いかにも牧歌的な風景である。
約2時間後、ツバイスマン駅に到着。普通列車に乗り換える。車両のちょうど中間にガラスのしきり。「喫煙」「禁煙」の厳しいけじめなのだ。
「喫煙」側に陣どった母子、しきり越しに、マック、モッちゃんに愛想。母親はセーターの手編みに忙しそう。手編みに目のない妻はさっそく意気投合。「製図」を手に入れたはよいが、ドイツ語だらけ。セーターは未だ完成せずにいる。(続く)
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【古いアルバムから】
アメリカ人学生ペアバックパッカー
スイスの山間の景色
パノラミックエクスプレスの車窓から
この時から34年も経つが車窓の景色はあまり変わらないことだろう。
車窓から
車窓から
山間にある小さな駅